11/15
翌朝早く、台湾を発つことになっている。実質最終日。
この日は個別行動の予定だったので、私は河を見に行くことに。水辺が好きで、世界のあちこちで時間があくと河や海を見に行く習慣がある。台北には大きな淡水河が流れているのに、あまり河の風景が有名でないので、どんな場所なのか一目確かめてみたかった。地図で確認すると、ホテルからそのまま歩いて行けるくらいの距離だけれど、MRTでひと駅だけ、龍山寺の駅まで乗って、少し西へ歩けば水辺に出られるようだった。
龍山寺の駅を降りると、台北駅や西門周辺とは全く違う、濃厚な中華圏の風景が拡がっていた。香港の繁華街のように連なる看板、生活の匂いがした。色んな匂いがしてくる。線香とかはんだ、竹細工の匂い。あまりに生活に近くてカメラを向けるのも申し訳なくなるような場所だ。ゆっくりと西へ歩く。
歩いてゆくと突然風景が開けて、広大な河が拡がっている風景を想定していたのだけれど、川沿いは高い堤防兼高架道路になっていて、期待を削がれた。堤防の入口がなかなか見つからない。その向こうは河浜公園になっている筈なのでどこかには入口があるはずなのだけれど。スクーターがビュンビュン通り過ぎる国道に沿ってとぼとぼ歩く。
ようやく、堤防から公園へ抜けるドアを見つけて、あちら側へ。
初めて見る淡水河は、期待を裏切らないいい風景だった。広い河の向こうには工業団地みたいな高層ビル群が見える。台北の交通の要になっているのであろう大きな橋の上には路線バスが次々と通り過ぎ、その向こうには山が霞んでいる。そして、時折松山空港に着陸する航空機が横切るのが見えた。淡水河は音も無く、ゆっくり流れている。どことなく盛岡の北上川を思いだす風景だった。西門の繁華街の裏手にこんな長閑な風景があるなんて想像できなかったな。
河岸は河浜公園として整備されていて、サイクリングコースになっているし綺麗な芝生が植えてあるけれど、ここに和みにくる台湾人は少ないらしく、ひと気はまばらだった。時折自転車に乗った人が通り過ぎるくらい。私は小雨の中河岸に座り込んで暫く風景を眺めていた。
足元に何か蠢く気配がしたのでよく見ていると、泥地に5センチくらいの穴が無数に空いている。何かが動いているので目を凝らすと、蟹だ!足元の穴に無数の蟹が隠れている。人が近づく気配に一斉に隠れたんだろう。あたりを見回すと、泥地一帯に無数の蟹が歩き回っていた。淡水の泥地の蟹というと、モズクガニみたいなものだろうか。その割にはサワガニみたいな大きさだけれど。食べられるものなら食べてみたいものだ。人の気配に敏感らしく、私が近づくと一斉に穴に隠れてしまってなかなか出てこない。河岸に座って蟹を眺める私を見た通りすがりの中国人が笑いながら通り過ぎて行った。
河浜公園には台北市の木でもあるガジュマルの樹が無数に生えていて、何本かは樹齢の高そうな太い樹だった。東南アジアを旅行しているとどこへ行ってもガジュマルが印象的だけれど、日本から見ると台湾は東南アジアの入口に位置しているんだな。
帰りは、夕暮れの街をゆっくりと西門まで歩いて帰った。
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