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南竿
離島の朝。寝ぼけながらテラスに出ると、丁度霧笛を鳴らしてこれから乗る台馬輪が寄港するところだった。キールンから夜行でやってきた赤いフェリーが朝もやの中でなんとも旅情をかきたてた。簡単に仕度をしてからチェックアウト、フェリー乗り場へゆく。東引までのチケットは350元。他にはやっぱり兵隊たちがチケット購入の列に並んでいた。港にあるセブンイレブンでコーヒーとスニッカーズを買って食べる。すっかり、スニッカーズが栄養源になってる。痩せちゃうだろうなー。
9時頃に搭乗手続き開始。台湾国内の移動だけれど、辺境エリアのセキュリティのため身分証の提示が必要。日本のパスポートを見せると、係員にちょっと驚いた顔をされる。主な乗客は、殆どが島間を移動する兵隊、その他は数人の台湾人の釣り客。外国人がこの船に乗るのは少し酔狂なのかもしれない。南竿から東引への移動は3時間程度で、昼行きなので無座といって、特に座席が指定されないチケットが発券される。南竿からの乗客は食堂兼ロビーに三々五々座る。この日の船は面白くて、食堂の右側に観光らしいおばちゃん達が陣取っていて、左側には兵隊君たちが陣取っていた。出航した船はやっぱり揺れたので、おばちゃんたちはアイヨー、アイヨーって次々に吐き始めて、兵隊君たちは慣れた様子で眠りはじめた。
約三時間のクルーズで、東引に到着。山の斜面に大きく「中柱港」のサインがあり、旅をしている実感が高まる。靄がかかってるように見えるのは霧だろうか。点呼を済ませた兵隊たちがトラックや車に乗せられて港を離れるなか、私はひとり、歩く。地図で確認したときには、島の中心地は港から歩ける距離だったので、タクシーに乗る必要は無いな。
地図どおりにゆくと島の中心地にたどり着いた。地図では道路があるように見えていた場所が実は急な階段で、息をきらした。あれが老爺大酒店。島で一番のホテルだ。フロントの女性に部屋代を聞くと、1200元。予算をちょっとオーバーしてしまう。ここに泊まるのはやめにして、明日の台馬輪のチケット販売に関してだけ教えてもらった。必要な情報を得たら次の民宿をあたろう。道なりに粗末な感じの民宿があったので扉を叩くと、中の女性が対応してくれた。宿泊するの?電話で予約はしてないのね?と一通りきかれ、団体客が入っていて今は満室だから、空いてる宿を探してくれると言う。ねぎらいに水まで出してくれて、親切に感謝。その際、二泊するんだけど2000元しかもってないので、できればその値段で泊まれる場所を、とリクエスト。我ながら、恐縮。曰く、普通はこの島の宿は1200元なんだけど、1000元でいいかどうかあわせて聞いてあげるから、とのこと。すぐに携帯でどこかに電話してくれて、民宿が決まった。それに、迎えにも来てくれると言う。
黄色いタクシーがすぐにやってきて、快活な女性が車にのせてくれた。民宿の女性にはお礼を言って、タクシーに乗り込む。「二泊するのね?」「はい、2000元しか持ち合わせがなくて」「お金のことはいいのよ」と気前がいい宿の女性。すぐに、先の民宿の目と鼻の先にある馬蓋先民宿に到着。女性はここのご主人だった。
「あの、ここで洗濯はできますか?」と聞くと、すぐに地下の、使用人が使ってるらしい洗濯部屋に連れていってくれて、二台ある洗濯機のどちらでも自由に使っていいそうだ。加えて、島では洗濯物が乾きづらいから、自宅の乾燥機で乾かしてあげるから、と有難い申し出。島についてからというもの、人の親切のお世話になりっぱなし。「私は英語ができないけど、この子は英語ができるから、何かわからないことがあったらこの子に言ってくれ」と、東南アジアから来ているメイドさんの少女を連れてきてくれた。
洗濯も終えたし、日暮れまで時間があるので灯台まで散歩してみることにした。途中で安東坑道に寄り道しながら、ゆっくりと歩く。南竿よりも坂道は少なくて歩きやすい。ただ、軍の施設と軍用道路への分かれ道があちこちにあるので、わかりづらい。灯台に向けて歩きながら、だんだん霧が深くなってきた。殆どの道は崖っぷちで、しかも今自分が歩いている道が正しいのかどうもわからず、車も人も通らない離島の道。加えて目の前をさらさらと流れてゆく霧。まるで自分が御伽の国に迷い込んでしまったような不思議な気分に捕われてしまった。このまま世界から消えてしまっても、誰にも気付かれずにそのままの日々が続いてゆくのだろうなんてことを考えながら歩く。霧が肌寒いのに上り坂を登り続けるので、汗が止まらない。
灯台についた頃には閉館時間の16時になっていた。ひと気も無いけど、誰か閉門する人がいるのだろうか。霧で殆ど見えない白い灯台は少し怖い印象。島の風景は、うまく言葉に言い表すことができないけれど、友達にあてたメッセージでは、東尋坊と秋吉台が一緒になって霧にとことん包まれている、と書いていた。でもうまく表していない。写真にもあまり良く映らなかった。言葉に尽くせぬ美しい島だ。
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