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『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』感想その2

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』感想

(書籍の内容に触れているので未読の方は読まないほうが良い)

実は、米原さんが旧友三人を訪ねるプロセスは、NHKでテレビ番組化されているのを、偶然Youtubeで見かけた。文芸賞をとったノンフィクションを、ドキュメンタリー化した番組ではない。テレビ番組は1996年に収録、放映されていて、単行本はその5年後の2001年に出版されているので、実は、ドキュメンタリー番組が先行して、その収録を通じて得た経験をもとに、書籍が執筆されているようです。



で、このドキュメンタリーテレビ番組と、実際に米原さんが書いたノンフィクション小説を見比べると、とても興味深い。テレビの方は、いかにもテレビらしく、編集の技で少しの実話を混ぜたありきたりな美談調に仕上がっているのに反して、小説のほうはその裏話といってもいいくらいの、米原さんの心の中が仔細に描かれている。

一番印象的なのが、やはりアーニャに再会した際の描写で、テレビでは、マリとアーニャが再会して涙する場面が一番のクライマックスとして描かれるのに対して、小説のほうでは、アーニャとの再会はマリにとって一番納得のいかない、複雑な感情を残すものとして描かれている。

小説でアーニャが発する「私は母国に対する思いなど10%しか残っていない」という発言は、ドキュメンタリー番組にも収録されているので、実際の発言なのだろうけれど、ドキュメンタリー番組では、30年ぶりの再会を果たした同級生が感動的な会話を交わした、という描かれ方に終始しているのに対し、小説の中のマリは、その発言に強い反感を覚え、胸の中で反論する。そして、憤る。それが小説のクライマックスにもなっている。

また、ふたりが、一方はロシア語、一方は英語で話しながら、きちんと意思疎通ができている場面において、

アーニャ「言葉は人間の拡張である。言語が違えど、人間ならわかりあえるものだ。私たちにとってそれは不思議ではない」
マリ「人間は必ず属性を持って生まれてくる。それでも、こうして異なる言語でわかりあえるのは、人間というのは類的に同じであるといえる」

ドキュメンタリー番組におけるこの会話では、一見マリは、アーニャに同意しているように見える。しかし、小説においては正反対だ。

アーニャ「言葉は人間の拡張である。言語が違えど、人間ならわかりあえるものだ。私たちにとってそれは不思議ではない」
マリ(の心の声)「違う!あなたは、親の支えによる特権によって、ロシア語の教育を受けているのでロシア語を理解しているのだし、私も理由あって英語を理解しているのである。それはそのような一般論ではない」
マリ「人間は必ず属性を持って生まれてくる。」
マリ(精一杯の皮肉で)「(おっしゃるとおり異なる属性のままで分かり合えるのならば、)人間というのは類的に同じと言えるであろう。(しかし、決してそうではない)」

つまり、テレビ番組において和やかに〆られた会話は、当人同士にとってはすこしも和やかでなく、まったく意見が異なっていた、と米原さんの小説は述べていた。皮肉のつもりで言った言葉が、番組では本心として表現されてしまったことに対する後悔が、小説に見て取れます。もしくは、米原さんは、その場所では確かにそう思ったけれど、後になって自分の発言を後悔したので、弁明として「嘘つきアーニャ」を執筆したのかも知れない。

それで、(まあ知ってたことだけれど)、やはりテレビって都合のいいパートだけを切り貼りして、製作者の描いた筋書き通りに編集されてしまって、登場人物たちの気持ちなんて描けないことが多いんだな、と改めて思いましたよ。ソ連は白と黒しかなかった。ソ連から出たら、グレーが存在することを知った、というアーニャの発言は、番組において、モノローグとして語られるけれども、米原さんが、その主張に同意していなかったことは、小説にしか書かれていない。米原さんは、「そんな勝手な解釈に、私を巻き込まないでほしい」と、突き放しているのでした。それならば、反共産的に、恣意的にアーニャの発言のみを取り上げて編集されているのは、誰の意向なのでしょう。

もちろん、小説のほうがどれだけ実話で、実はどれだけ創作が入っているのか、とか、著者が死去されている今となってはわからないはずなので、テレビは駄目で、小説が真である、なんてことは言いたくないけれど。結論が正反対であるというのは、確かなのです。

1996年頃らしい訪問から5年が経過してから書籍が発行されている背景には、コソボ紛争が収束して登場人物の身の安全が保証されてから、晴れて出版することができたのかな、と想像することができました。米原さんという人の優しさを感じることができました。

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